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ココロの森

ココロの森

真珠の言の葉 / 池澤夏樹


これまでに読んだ 池澤夏樹氏の著書のなかから
     
ココロに響いた一節を 書き留めてみました。


  
みなさんのココロには 

どう響きますか?

 




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  神はいない。皇帝はいない。長老達もいない。

  共和国を形成する委員会もない。

  委員達は互いに平等でも他に対しては権力をもつ。

  そういう構造は普遍的ではないだろう。

  それが一つの社会をうまく運営できるというのは地球的な、

  ヒト的な、迷妄にすぎなかった。

  ヒトの知性に自己制御の能力はなかった。

  あの文明は全体として失敗だった。

  ヒトは巨大な脳に依って生きるという実験を試み、敗退したのだ。

  個体の努力と進化のシステムは切り離しておくべきだった。

  個体が進化に関与できるやりかたはうまくいかなかった。行き詰まった。

  やはり獲得形質を子孫に伝えるべきではなかった。

  親が作った資産を子に相続させるのは生物学的に間違いだった。

  科学で技術を強化するのは間違いだった。

  その技術を教育によって次の世代に伝えるのは間違いだった。

  科学と技術は異常に肥大し、勝手に自己増殖し、細部から腐敗し、

  最後には自分の重みに堪えかねてつぶれた。

  それがいわゆるグレード・ハザードの本質だった。




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  そうだとしたら、それは変化であって進化ではない。

  考える快楽を専らとする存在は

  衝動の実現を専らとする存在よりも上位にあるわけではない。

  だいたいヒトは進歩という考えに捕らわれすぎたのだ。

  昨日と違う今日、今日よりもよい明日を願いすぎたのだ。

  そのために組織を作り、階級制度を作り、

  皇帝を、委員会を、ネットワークを作った。

  あるいは神を作った。





  --- 池澤夏樹 著 『やがてヒトに与えられた時が満ちて…』
                   「 星間飛行 」より ---





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  ----なぜ、人は実物に出会って感動するか。

    写真でさんざん見て知っているミロのビーナスの前に立つ。

    あこがれのスターに握手してもらう。

    大文豪の自筆原稿をじかに手に取る。

    こういう時の感動の理由は簡単。

    いつもいつもコピーばかり掴まされているからだ。

    今の時代、ぼくらが接する文化の99%はコピーである。

    コピーの量産が文化を大衆化した。
   
    だけど本当は違うはずだとぼくたちは心のどこかで思っている。

    本物が世の中に一点しかないことを知っている。

    しかし、本物との出会いを、それが希有なことだから貴重だと考えるのは間違っている。

    それでは「超レアもの」にうつつをぬかす珍品あさりのコレクターに堕してしまう。

    自然界ではすべてが本物である。

    本物は、たとえ地球上に百万個あったところで、百億個あったところで

    その一つ一つがすべて本物だから、コピーではないから、

    しっかりとこの世界を構成している土台だから、価値がある。

    




         ---- 池澤夏樹 著 『アマバルの自然誌』より ---- 





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理(ことわり)とは人の屁理屈にあらず、自然の掟の謂(い)いである。
万事は自然の掟の内にある。
これに従えば栄え、背けば廃る。
(中略)
だから私は、西洋の教えであっても神のことばかりは容易には受け入れ難いのだ。
彼等の神は自然の掟、万物の掟の外にある。
流れの中の藻のごとく万物の内にある日の本の諸神とは異なる。
人と共に暮らすアイヌの神々とも違う。

鮭も鱒もアイヌだけ、人間だけのものではない。山に住む狐や梟が、みんなが待っている。
鮭の神様、鱒の神様がちゃんと数を数えて送って下さる。
多い年は多く、少ない年は少なく。
だから欲張ってはいけない。目の前に宝があって、それを全部自分のものだと思うのは和人だけだ。

なぜ力をもって押しつぶすことしか考えないのだろう。


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滅びゆく民、という言葉が私は嫌いだ。
まるで放っておいたら滅びたかのような言い方。
それを人ごとのように高見から見て、同情のそぶりだけを示す。
自分の手や口のまわりが血にまみれていることには気づきもしない。


                         『静かな大地』





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